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ビールについて学ぼう:第二回 ~基本の原料とドイツのビール純粋令、そして日本~

シリーズ第一回の「そもそもビールって?」では、ビールの定義は「麦から造った醸造酒」としました。当然、ビールの基本の原料のひとつは麦です。使われる麦の種類も色々ありますが、詳しいことは第三回の「麦、麦芽と焙煎について」でお話します。

その麦の他に基本の原料として必ず使われるものは、ホップ、酵母そして水です。このあたりは皆さんご存知のことが多いですね。

「基本の原料の話ってそれだけ?」という声が聞こえてきそうですので、突っ込んだ話をもう少し。

ビール純粋令ってご存知ですか?これはドイツのビール製造についての法律で1516年にウィルヘルム4世によって制定されました。昨年はちょうど500年ということでドイツでは記念の式典などもあったようですが、この法律は食品の品質を保証する世界最古の法律と言われています。

このビール純粋令によって定められているのは「ビールは大麦、ホップ、水のみから造らなければいけない」というものです。1993年の酒税法の改正で大麦以外の麦芽や砂糖が使えるようになりましたが、基本的にはほとんどの醸造所は従来の純粋令を守っており、フルーツやハーブ、スパイスを自由に使うベルギーとは一線を画しています。

実はこのビール純粋令が制定される前までは、ビールの香りづけや腐敗を抑えるために古くから色々な薬草が使われていました。その当時はホップもその中のひとつに過ぎなかったのです。

その様々な薬草を配合したものを「グルート」と呼び、その製造は領主や修道院、都市などが独占して、ビール製造業者にグルートを売って利益を得ていました。その配合、及び販売権はグルート権と呼ばれ、ビール醸造権とともに都市の財源(地域ごとに特定のグルートを使ってビール醸造の権利を持つ製造業者のみが製造できたため)となっていました。

ウィルヘルム4世が制定したビール純粋令は、当時大麦以外の穀物を使用することなどから安定しない品質を担保するために公布されたものですが、その背景にはグルート権などの利権も絡んでいたと考えられます。現在もホップの主要産地のひとつであるドイツのハラタウ地方ですでにホップの栽培が行われていたこともあるかもしれませんが、いずれにせよハラタウ地方を中心としたホップ栽培もこの法律をきっかけに盛んになっていくことになります。

そんな「ビール純粋令」ですが、世界的に見ればドイツを除く国々では「麦、ホップ、水」以外の副原料を使用しています。では日本はどうでしょうか?

実は日本でも酒税法でビールがきちんと定義されています。

酒税法第3条第12号 次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のものをいう。 イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の50を超えないものに限る。)

法律の文章は読みにくくわかりにくいですが、ビールには麦芽、ホップ、水を使い、麦芽以外の原料は使用する麦芽の半分以下、つまり原料のうち麦芽は3分の2以上ないといけない、ということです。

そして「その他の政令で定める物品」も決まっています。それは、麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、デンプン、糖類、そして財務省令で定める苦味料、着色料です。

さて、皆さんご存知の発泡酒、第3のビールもその定義が法律で決まっています。そこまで書くとややこしいのでここでは割愛しますが、ベルギービールを扱う者として知っておいて欲しいことがあります。

ベルギービールにはフルーツやハーブ、スパイスを使ったものが数多くあります。しかしこれらの副原料は「その他の政令で定める物品」に含まれていないため、酒税法上「発泡酒」と分類されてしまいます。例えばヴェデット・エクストラホワイト。オレンジピールやコリアンダーが使われているため日本語のラベルには「発泡酒」と書かれています。そこでよく聞かれるんですよね〜。「発泡酒なのになんで安くないの?」

実はビール、発泡酒、その他の発泡性酒類(第3のビールを含む)の税額は以下のように定められています。

ご覧の通り、発泡酒でも麦芽比率が50%以上であればビールと同じ税金がかかってしまいます。ベルギービールの発泡酒のほとんどは麦芽比率が50%以上あり、また関税やベルギーからの輸送コストなどもかかるため日本のビールより高くなってしまいます。これが発泡酒なのに安くない理由で、ラベルには「麦芽含有率50%以上」と書いていたりします。

ビールの基本の原料の話がいつのまにかここまで広がってしまいましたが、こういうことも知っていただくと、ベルギービールを見る目も少し変わるのではないでしょうか?

なお、基本の原料のひとつとして「酵母」を挙げましたが、厳密に言うと酵母は糖分を発酵するための「製造助剤」とも言え、必要不可欠なものでありながらビール純粋令や日本の酒税法の原料に含まれていないのは、原料という概念で捉えるものではないからだと思います。まあ、お酒の話なのでややこしいことは考えず、酵母も原料としておきます。

それでは次回は麦についてです。次はあんまり長くならないように気をつけます。

「ビールについて学ぼう」シリーズ 第一回 ~そもそもビールって?~ 第二回 ~基本の原料とドイツのビール純粋令、そして日本~ 第三回 ~麦、麦芽と焙煎について~ 第四回 ~ホップがなければビールじゃないのはなぜ?~ 第五回 ~酵母の力は偉大だ!~ 第六回 ~水が違えばビールも変わる?~ 第七回 ~いろんな副原料~ 第八回 ~ビール製造の基本~ 第九回 ~麦を麦芽に:製麦工程~ 第十回 ~デンプンを糖分に:糖化工程~ 第十一回 ~麦汁をきれいに:濾過工程~ 第十二回 ~ホップの登場:煮沸工程~ 第十三回 ~いよいよお酒に:発酵工程~ 第十四回 ~まだ飲んじゃだめ:貯酒・熟成工程~ 第十五回 ~Are you ready?:パッケージング工程~ 第十六回 ~おまけ~

注)店主の知識をまとめたものであり、事実と異なる記述もあるかもしれませんので、その点についてはご容赦下さい。

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