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ビールについて学ぼう:第十二回 ~ホップの登場:煮沸工程~

いよいよビール造りも後半の工程に入ってきました。今回は『煮沸工程』です。

煮沸工程の主な目的は次のとおりです。

1. 麦汁を殺菌する。

2. 麦汁に残っている酵素を失活させる。

3. 凝固性のタンパク質を加熱により凝固させる。

4. 第二麦汁によって薄まった麦汁を濃縮し、濃度を調整する。

5. 好ましくない香りを揮発させる。

6. ホップを投入してホップ成分(苦味、香り)を抽出する。

ではひとつずつ見ていきましょう。

1. 麦汁を殺菌する。

これは煮沸工程で最も重要な目的の一つです。煮沸工程を経た麦汁は発酵工程に移りますが、そこで仕事をするのは酵母です。でももし麦汁の中に他の微生物が残っていたらどうなるでしょう? 期待した仕事を酵母ができなくなり、ここまでやってきたビール造りは失敗です。酵母にしっかりと仕事をしてもらうためには、麦汁の中にその邪魔をする微生物を全て殺菌する必要があります。

2. 麦汁に残っている酵素を失活させる。

第五回 ~酵母の力は偉大だ!~」でお話しましたが、酵母の発酵過程の中で麦芽糖をブドウ糖に分解するというものがあります。この分解は酵母由来のマルターゼという酵素が行うのですが、もし他の酵素が残っていたらマルターゼによる麦芽糖の分解に影響が出ます。そのため残っている酵素を失活させます。

3. 凝固性のタンパク質を加熱により凝固させる。

余分なタンパク質もビールの味や見た目(濁り)に影響が出ます。そのため加熱することで余分なタンパク質が凝固させます。凝固したタンパク質は煮沸工程を進めていく中で凝集して大きくなっていきますが、これを『ブルッフ』と言います。ところが煮沸時間が長すぎたり加熱が強すぎたりすると、生成したブルッフが細かくなって凝集しなくなります。そのため煮沸時間や温度の調節は重要です。昔の醸造技術者はブルッフの生成状態で煮沸時間などを見極めていたそうです。

4. 第二麦汁によって薄まった麦汁を濃縮し、濃度を調整する。

濾過工程でお話しましたが、第一麦汁を取った後、もろみ層にお湯をかけて残っているエキス分を抽出しますが、お湯を入れるため麦汁が薄まってしまいます。煮沸工程は薄まった麦汁の濃度を調整する目的も兼ねています。

5. 好ましくない香りを揮発させる。

香りとは揮発するから鼻で感じることが出来るですが、当然温度を高くすればそういったものは揮発します。次のホップのところでも触れますが、ビールに残しておきたくない香り(=揮発成分)を加熱することで飛ばしてしまいます。

6. ホップを投入してホップ成分(苦味、香り)を抽出する。

これも最も重要な目的の一つではないでしょうか。ビール特有の苦味はホップ由来です。ホップによって得られる香りも多くあります。この工程がなければビールはビールらしくなくなってしまうでしょう。

第四回 ~ホップがなければビールじゃないのはなぜ?~」でホップには「ビタリングホップ」と「アロマホップ」に分けることが出来るとお話しましたが、煮沸工程ではこれらの使い分けも重要です。ビタリングホップはビールに苦味を付けることが主な目的になりますので、長い時間加熱したほうがより苦味が抽出されます。つまり苦味を「煮出す」わけですね。従ってビタリングホップは煮沸工程の初期段階に投入されます。

一方アロマホップはどうでしょう。煮沸工程の一つの目的に「好ましくない香りを揮発させる」とありますが、せっかくホップが持つ素晴らしい香りを付けたいのに、加熱すればするほど香りは揮発して飛んでしまいます。でもある程度加熱しないとホップから香りは抽出されません。そのため香り付けが主な目的のアロマホップは煮沸工程の後半に投入されます。

一種類のホップしか使わなくても投入のタイミングを変えることで苦味も香りも付けることができたり、香りのしっかりしたホップを後半に大量に入れることで華やかな香りの強いビールを作ったりと、様々なキャラクターのビールを造るのに煮沸工程でのホップの使い方は本当に重要です。おそらくビール造りの一番楽しいところなのではないでしょうか。

煮沸工程の終わった麦汁はどうなるか。麦汁の中にはブルッフやホップ粕がまだ残っていますので、これを取り除かなくてはいけません。そのためワールプールというところに勢いよく流し込み、遠心力でブルッフやホップ粕などを底に凝固させます。

こうして出来上がった麦汁は冷やされて発酵槽に送られます。いよいよ発酵工程が始まります。

「ビールについて学ぼう」シリーズ 第一回 ~そもそもビールって?~ 第二回 ~基本の原料とドイツのビール純粋令、そして日本~ 第三回 ~麦、麦芽と焙煎について~ 第四回 ~ホップがなければビールじゃないのはなぜ?~ 第五回 ~酵母の力は偉大だ!~ 第六回 ~水が違えばビールも変わる?~ 第七回 ~いろんな副原料~ 第八回 ~ビール製造の基本~ 第九回 ~麦を麦芽に:製麦工程~ 第十回 ~デンプンを糖分に:仕込工程~ 第十一回 ~麦汁をきれいに:濾過工程~ 第十二回 ~ホップの登場:煮沸工程~ 第十三回 ~いよいよお酒に:発酵工程~ 第十四回 ~まだ飲んじゃだめ:貯酒・熟成工程~ 第十五回 ~Are you ready?:パッケージング工程~ 第十六回 ~おまけ~

注)店主の知識をまとめたものであり、事実と異なる記述もあるかもしれませんので、その点についてはご容赦下さい。

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